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東京地方裁判所 昭和54年(レ)57号 判決

控訴人 金子滋子

右訴訟代理人弁護士 原長一

同 桑原收

同 青木孝

同 小山春樹

同 藤田久一

右訴訟復代理人弁護士 森本紘章

亡角田松太訴訟承継人 被控訴人 角田しず子

〈ほか五名〉

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 岡部保男

同 平野大

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人に対し、別紙目録記載の建物を明け渡し、かつ昭和五三年六月一日から右明渡しずみまで一か月二万四九六〇円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  金子サトは、角田松太(以下、松太という)に対し、昭和三年三月、別紙目録記載の建物(以下、本件建物という)を期間の定めなく賃貸し、これを引き渡した。賃料は、その後順次改訂され、昭和五二年四月一日からは月額二万四九六〇円である。

2(一)  金子サトは、右契約後死亡し、その子である控訴人が相続により本件建物の賃貸人の地位を承継した。

(二) 松太は、昭和五五年二月二二日死亡し、その妻である被控訴人角田しず子並びにいずれも松太の兄の角田本治の子である被控訴人鈴木きく、同角田勝衛、同小坂重代、同角田慶一及び同粕谷美が相続により本件建物についての松太の従前の地位を承継した。

3(一)  控訴人は、松太に対し、昭和五二年一〇月二九日松太に到達した書面により右賃貸借契約を昭和五三年五月三一日限り解約する旨の意思表示をした。

(二) 右解約申入れには、次のような正当事由がある。

(1) 控訴人は、昭和二〇年、戦災でアパートを焼け出されたため、松太に対し、本件建物の明渡しを求めたが、拒絶された。そこで控訴人は、やむなく、そのころ牧野光延(以下、牧野という)から本件建物と道路をはさんで向い側にあり、本件建物とほぼ同じ間取りの建物を賃借し、以来、自己所有の本件建物を目前にして、右借家に居住してきたが、老齢(明治四一年一〇月二日生まれ)となり、本件建物に居住することを強く希望している。

(2) 控訴人は、本件建物を所有していながら、これを松太に賃貸し、自らは借家住まいをしているため、毎年、右牧野への賃料として本件建物の賃料とほぼ同額の支出が必要なほか、本件建物の固定資産税及びその敷地の地代の支払いを余儀なくされているが、その収入は、国民年金と本件建物からの賃料のみである。控訴人は、わずかな貯金と一人息子田中昭男の援助によってその生計を維持してきたが、昭和五三年二月二一日には右昭男も死亡し、控訴人が経済的に頼れる者は皆無となり、今後の生計を確保するためには、本件建物の明渡しを受け、控訴人がその二階部分に居住するとともに、その一階部分を事務所として賃貸する必要があり、かつ、それが控訴人の生計確保のため唯一可能な方法である。

(3) 控訴人は、近年、右牧野からたびたび口頭で明渡しの要求を受け、さらに昭和五三年三月には、内容証明郵便により、自己使用を理由に立退きの請求を受け、その対応に苦慮しているが、身よりのない一人住まいの老女であるため、公的住宅への入居はきわめて難しい状況にある。

(4) 松太は、夫婦者であったから、公的住宅への入居資格はひろく開かれていたし、民間住宅への転居も、十分に可能であった。また、同人の収入は、年金と生活保護で約一五八万円あったほか、和裁の仕事による収入もあった。

(5) 本件建物は、建築後五〇年以上を経て老朽化しており、これまで十分な修理もなされていないうえ、借地上の建物であるから借地権の消滅を防ぐためにも、控訴人は一日も早く明渡しを受け、修繕をして自己唯一の財産を保全する必要がある。

(6) 本件建物は、控訴人が牧野から賃借している建物と道路をはさんで向い側にあり、両者はほぼ同じ間取りであるにもかかわらず、本件建物の賃料は、三年の猶予期間を経て昭和四八年三月から一時期同額になったことを除き、昭和二〇年以来常に控訴人が牧野に支払う賃料より低額であり、控訴人はその間本件建物を貸すことによりその差額相当の損害を蒙ってきたのであるが、松太は、この事情を熟知しながら、両建物の賃料を同額にするという約定を遵守せず、長年そのような状態を控訴人に強いてきたのであって、賃貸借契約における当事者間の信頼関係は破壊された。

(7) 正当事由に関する被控訴人らの主張(後記二3)に対する控訴人の認否

① 控訴人らの主張(一)の事実中、松太夫婦が本件建物に五〇年間居住していることを認め、その余は不知。

② 同(二)の事実中、松太の収入額は否認し、その余は不知。

③ 同(三)の事実を否認する。ただし、明渡訴訟を提起されていないことは認める。

4(一)  控訴人は、松太に対し、昭和五四年一月一日、その時点における本訴の維持をもって解約申入れをした。

(二) 右解約申入れには、次のような正当事由がある。

(1) 当事者双方の事情については、右3(二)(1)ないし(5)記載のとおり。

(2) 当事者間の信頼関係が破壊された事情については、右3(二)(6)記載の事実のほか、次の事実を付加する。

① 松太の妻被控訴人角田しず子は、昭和五四年一月三一日の本件口頭弁論期日において、何らの根拠なく控訴人にいわゆるパトロンがいるかの如き供述をし、控訴人の名誉を著しく毀損した。

② 松太は、控訴人から本件建物の明渡しを求められてから一年半の間、転居先を捜す等自己の住宅事情好転のための努力を何一つしなかった。

5(一)  控訴人は、被控訴人らに対し、昭和五五年六月二日、その時点における本訴の維持をもって、解約申入れをした。

(二) 右解約申入れには、次のような正当事由がある。

(1) 控訴人側の事情については、前記3(二)(1)ないし(3)及び(5)記載のとおり。

(2) 被控訴人ら側の事情

松太は、昭和五五年二月二二日死亡し、その後、被控訴人角田しず子が本件建物に一人で居住し使用を継続しているが、本人が希望すればいつでも短期間のうちに老人ホームに入居できる。

(3) 当事者間の信頼関係が破壊された事情については、前記3(二)(6)、右4(二)(2)の各事実のほか、次の事実を付加する。

① 松太ないし被控訴人角田しず子は、昭和五四年七月一日以降も、誠実に転居先を捜すなどの努力を何一つしていない。

② 控訴審での和解における右しず子の態度は、居住権のみを主張し、不誠実である。

6  控訴人は、被控訴人らに対し、昭和五六年四月一七日の当審における本件口頭弁論期日において、右正当事由を補完するため、本件建物の明渡と引換に、七〇万円を限度として裁判所が相当と認める額の立退料を支払う旨の申入れをした。

7  よって、控訴人は、被控訴人らに対し、賃貸借契約の終了に基づき、本件建物の明渡し及び昭和五三年六月一日から明渡しずみまで一か月二万四九六〇円の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2及び同3(一)の事実をいずれも認める。

2  同3(二)の事実について、

(1)のうち、控訴人が昭和二〇年、戦災でアパートを焼け出されたため、松太に対し、本件建物の明渡しを求めたが、拒絶されたこと、そこで控訴人は、やむなく、そのころ、牧野から本件建物と道路をはさんで向い側にあり、本件建物とほぼ同じ間取りの建物を賃借し、以来、右借家に居住してきたことを認め、その余は不知。

(2)(3)及び(5)は不知。

(4)及び(6)を否認する。ただし、(6)のうち本件建物の賃料が時期によって控訴人が牧野に支払う賃料よりもわずかに低額であったことのあることは認める。

3  同3(二)(正当事由)に関する被控訴人らの主張

(一) 松太、被控訴人角田しず子夫婦は、本件建物に五〇年間居住しており、戦時中も、本件建物に残り、空襲による火災から本件建物を守ってきた。本件建物及び神田地域への愛着が強く、本件建物で人生を終えたいと強く希望している。

(二) 松太は、もと本件建物で和裁業を営んでいたが、両手指の関節リューマチを患い、昭和五一年四月に廃業した。そのため同年五月から生活保護を受け、その収入は、夫婦二人で、毎月生活保護による給付七万円余と老齢年金一万円の合計八万円余であり、きわめて劣悪な生活状態である。子供もなく、他に頼るべき者もいない。

(三) 牧野からの明渡要求が仮に真実としても、右要求は控訴人の松太に対する明渡し要求に触発されたものであり、また単に事実上明渡しを求められたものにすぎず、明渡訴訟を提起されたわけでもない。

4  同4(二)の事実中、

(1)については、引用部分に対する認否は前記のとおり。

(2)のうち、引用部分に対する認否は前記のとおり。その余を否認する。

5  同5(二)の事実中、

(1)については、引用部分に対する認否は前記のとおり。

(2)のうち、老人ホームに関する部分を否認し、その余を認める。

(3)のうち、引用部分に対する認否は前記のとおり。その余を否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2及び同3(一)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで請求原因3(二)(昭和五二年一〇月二九日の解約申入れについての正当事由)について判断する。

1  使用の必要性について

(一)  控訴人側の事情

控訴人が昭和二〇年、戦災でアパートを焼け出されたため、松太に対し、本件建物の明渡しを求めたが拒絶されたこと、そこで控訴人は、やむなく、そのころ、牧野から本件建物と道路をはさんで向い側にあり、本件建物とほぼ同じ間取りの建物を賃借し、以来右借家に居住してきたことはいずれも当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、控訴人は、明治四一年一〇月二日生まれであって、老齢となり、右借家の目前にある自己所有の本件建物に居住することを強く希望していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

控訴人の経済状態については、《証拠省略》によれば、控訴人は、昭和五年田中政男と結婚し、同人との間に一人息子田中昭男をもうけたが、昭和六年には離婚し、昭和五一年ころからは、右昭男から生活費として月額三万円の援助を受けていたこと、控訴人の収入は、少額の年金と本件建物の賃料収入のみであり、これまで控訴人が若いころ働いて得た貯金と右昭男の援助によってその生計を維持してきたこと、しかし右昭男は、昭和五三年二月二一日死亡し、その結果控訴人が経済的に頼れる者は皆無となり、また右貯金の残りもあまりないこと、他方、控訴人は、現在居住している建物の賃料及び本件建物の敷地の地代を支払っていることが認められ、谷口という者が控訴人の生活をみている旨の《証拠省略》は、それ自体あいまいであるのみならず、《証拠省略》に照らし、たやすく措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は、今後本件建物の二階部分に自ら居住するとともに、その一階部分を事務所として賃貸し、収入が得られれば生計を維持するに好都合である事実が認められる。

そして、牧野からの明渡要求の点については、《証拠省略》によれば、控訴人は、昭和五三年三月ころ、同人が牧野から賃借している前記建物について、同人から自己使用を理由に同月二七日付の書面で明渡しの要求を受け、それ以前より、口頭でも何回か明渡しの要求を受けた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。しかしながら、牧野から控訴人に対して右明渡要求を実現するために明渡訴訟が提起されているわけでもなく(この事実は当事者間に争いがない)、右要求の強さについては疑問をはさまざるを得ない。

(二)  被控訴人ら側の事情

松太と被控訴人角田しず子は夫婦であり、右両名が約五〇年間本件建物に居住してきたことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、松太は明治三一年一〇月三〇日生まれ、右しず子は明治三八年一二月一四日生まれ(右しず子の生年月日は、記録上明らかである)で、ともに高齢であり、右松太は、病気がちのため、近所の医者に通う都合上からも、本件建物に住み続けることを強く希望していた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

松太の経済状態については、《証拠省略》によれば、松太は、和裁を業としていたが、昭和四七年ころから手指を患って、あまり仕事ができなくなり、昭和五〇年ころから生活保護を受けて生活するようになり、和裁の仕事でわずかな収入がある他は、年金と生活保護による給付によってその生計を維持していた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

そして《証拠省略》によれば、松太は、寝たり起きたりの身体で、日常歩行やや困難という状態であり、階段の昇降の必要な住宅への転居は困難であることが認められるけれども、他方、《証拠省略》によれば、都営住宅においては、生活保護を受給しているために入居資格が認められないということはなく、身体障害者であって、かつ階段の昇降が著しく困難であると認められる者については、エレベーター付きの住宅又は低階層への入居を配慮していることが認められる。以上の事実によれば、松太が生活保護を受けているため、あるいは身体が不自由なために転居の可能性はまったくないということはできないけれども、その経済状態及び健康状態から推測して、適当な転居先を見つけることはかなり困難であると推認され、本件全証拠によるも、松太夫婦に当時適当な転居先があった事実を認めるに足りない。

2  その他の事由について

《証拠省略》に前記争いのない事実(請求原因1)を総合すると、本件建物は、借地上の建物であるが、建築後五〇年以上を経て、かなり古くなっていることが認められるけれども、本件全証拠によるも本件建物に現在早急に修理を必要とする箇所があると認めるに足りず、《証拠省略》によれば、本件建物について、以前、松太が費用を負担して修繕したことのあることが認められ、右認定に反する証拠はない。

次に賃料改訂の経緯については、本件建物は、控訴人が牧野から賃借している建物と道路をはさんで向い側にあり、両者はほぼ同じ間取りであることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、本件建物の賃料は、かねてから控訴人が牧野に支払う賃料より低額であり、例えば、昭和四七年三月から同四八年二月の間は、前者が一万〇五〇〇円であるのに対し、後者は一万三七五〇円であったことが認められるが、他方、右期間以後の本件建物の賃料については、控訴人が松太に交渉した結果、昭和四八年三月から本件建物の賃料は値上げされて、右両賃料は同額となり、以後少くとも昭和五二年一〇月二九日の解約申入れまで同額で推移している事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  以上の事実を総合すると、使用の必要性については、控訴人側、被控訴人ら(松太)側双方に、それぞれ本件建物の使用を必要とする理由があるものと認められ、特に、老齢の控訴人が目前にある自己所有の本件建物に居住したいとの希望は、当裁判所としても十分に理解しうるところではあるけれども、双方の事情を比較すると、控訴人側の使用の必要性が、松太側のそれを上廻っているものとまでは認めることができず、その他の事由については、前記認定のとおり本件明渡を正当とする事由ありと認めるに足りない。そうすると、控訴人の右解約申入れについて、正当事由があるとすることはできないと言わざるを得ない。

三  次に、請求原因4(一)(昭和五四年一月一日の解約申入れ)について判断するに、昭和五四年一月一日当時、本訴が、控訴人から松太に対し、賃貸借契約の終了を理由に本件建物の明渡しを求めるものであって、東京簡易裁判所に係属していたことは、当裁判所に顕著である。

そして同4(二)(右解約申入れについての正当事由)については、控訴人は右解約申入れについての正当事由として、従前の主張に加えて、同4(二)(2)の事情を主張するので、まずこの点について判断するに、住宅事情好転の努力については、《証拠省略》によれば、松太は、控訴人から明渡しを求められた後、控訴人に対し控訴人と松太との間で本件建物と控訴人が牧野から賃借している建物を交換し、控訴人が本件建物に、松太が右借家に居住してはどうかと提案し、牧野に対しその旨の承諾を求めた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。次に、控訴人の名誉毀損の点については、被控訴人角田しず子は、昭和五四年一月三一日の原審における口頭弁論期日において、証人として、「谷口という広告会社の社長が控訴人の生活を見ているそうで、人さまのことなので詳しいことはわからないけれども、二人の間には子どももいる」旨の供述をしているが、仮に右供述が真実に反していたとしても、右供述は、伝聞ないし推測であり、かつ、控訴人から提起された明渡訴訟における証人としての供述であることを考えると、右証言のなされたことをもって、本件賃貸借契約における当事者間の信頼関係が破壊されたものと言うことはできない。以上の判示に前記二の判示を併せて考えれば昭和五四年一月一日の解約申入れについても、正当事由があると言うことはできない。

四  すすんで、請求原因5(一)(昭和五五年六月二日の解約申入れ)の事実について判断するに、昭和五五年六月二日当時、本訴が、控訴人から松太の相続人である被控訴人らに対し、賃貸借契約の終了を理由に本件建物の明渡しを求めるものであって、当裁判所に係属していたことは、当裁判所に顕著である。

そこで、同5(二)(右解約申入れについての正当事由)につき判断するに、松太が昭和五五年二月二二日死亡したことは当事者間に争いがないので、まず、右松太の死亡にともなう被控訴人ら側の事情の変化について検討する。松太死亡後、被控訴人角田しず子が本件建物に一人で居住し、使用を継続していることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右しず子は、従前と同じく、年金と生活保護により生活しており、老人ホームへの入居は希望していない事実が認められ、右認定に反する証拠はない。以上の事実によれば、松太死亡後も賃借人側の使用の必要性については、あまり大きな変化は認められず、賃貸人である控訴人側の使用の必要性は前記認定のとおりであるから、控訴人側の必要性が、被控訴人ら側のそれを優越しているものと認めるに足りない。

そして、控訴人の主張するその他の事由(同5(二)(3))については、一般に賃借人は賃貸人から明渡を要求されたからといって、当然に転居先を捜す義務を負うものではなく、また本件においては、前記三で認定したとおり、松太は、控訴人から明渡しを要求された後、本件建物を明け渡すべく一応の努力をしているのであるから、仮に松太ないし右しず子が昭和五四年七月一日以降特に何の努力もしなかったとしても、このことが正当事由の判断に影響を及ぼすものとは考えられず、和解に関する事情については、証拠がまったくない。

以上の判示に、前記二及び三の判示を併せて考えれば、昭和五五年六月二日の解約申入れについても、正当事由があると言うことはできない。

五  次に、正当事由を補完するものとして、立退料を支払う旨の控訴人の主張(請求原因6)について判断するに、以上判示の事実に照らして考えると、控訴人主張の額(七〇万円を限度とする)では、低額と言わざるを得ず、これをもって、本件の正当事由の不十分性を補完するものと解することはできない。

六  結論

以上の事実によれば、控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 畔柳正義 池田陽子)

〈以下省略〉

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